ヒンメリの魅力と作り方~北欧生まれの祈りのモビール~
美しい幾何学模様を特徴とするフィンランド生まれの装飾品「ヒンメリ」は、近ごろ日本でもオシャレなインテリアとして人気です。今回は身近な材料でできる初心者でも挑戦しやすい作り方を、ヒンメリ作家の大岡真奈さんに教えていただきました。
大岡さんとヒンメリとの出会い
ヒンメリ作家として活躍する大岡真奈さんが、「ヒンメリ」の存在を初めて知ったのは7~8年前。図書館で偶然手に取った雑誌に見開きで紹介されていた、シンプルな形の幾何学模様のモビールです。
大岡「ページを開いた瞬間その美しさに圧倒されて、そこから動けなくなってしまったんです。
読み進めていくと『ヒンメリ』というキーワードに行き当たり、早速ネットで検索してみたら似たような幾何学模様の画像がいくつか出てきて。ああ、こういうのをヒンメリって言うんだ、と。でもヒントはそれだけでした」
当時まだ日本ではヒンメリを知っている人はおらず、様々なモチーフの作り方を紹介している書籍はありませんでした。大岡さんは雑誌やインターネットで見た写真だけを頼りに、ただ夢中で手を動かしながら、オリジナルでどんどん複雑な形を作っていったそうです。
ヒンメリとはフィンランドの祈りのかたち
大岡さんをそれほど魅了したヒンメリとは、そもそもどんなものなのでしょうか。
大岡「ヒンメリは、もともと北欧・フィンランドで生まれた、幾何学模様を立体的に編んだ伝統装飾です。
フィンランドは北海道よりも緯度の高い寒冷地域で、昔から寒い土地でも栽培しやすいライ麦を主食としていました。
ライ麦を収穫し終わったら、残った茎(藁)でヒンメリを作り、出来上がったものを食卓の上に飾って翌年の豊作や家族の健康を祈ったと言われています。
クリスマスやお祭り、結婚式の装飾品としても親しまれ『幸運のお守り』『光と影のモビール』とも呼ばれています」
いわば日本の「しめ縄」に似た役割を与えられていたヒンメリ。
ライ麦と稲という生きるための大切な糧を細部まで無駄にせず、フィンランドではヒンメリを編み、日本ではしめ縄を編む。
遠く離れた2つの国で作るものは違っても、どこか共通する「祈りのかたち」が根底にあるという点も、ヒンメリに魅力を感じる理由と大岡さんは話してくれました。
ヒンメリは身近な材料で誰もが作れる
ライ麦の藁で作るヒンメリは、経年変化で少しずつ飴色に変化し、ツヤが出てくるのが魅力。とはいえ、日本ではライ麦の藁は手に入りづらく、そのうえ柔らかく繊細な素材なので、作り慣れないうちは扱いにくいという難点があります。
そこで大岡さんが、開催しているワークショップなどでも好んで使っているのがストローです。
大岡「ストローだったらヒンメリ作りのハードルがぐっと下がる。どこのご家庭にもたいていはあるでしょうし、藁に比べて強度もあるので割れる心配がありません。ストローと糸さえあれば、まったく初めての方やお子さまでも作ることができます。
なかでもおすすめは、黒いストローです。日本の家屋は白壁の部屋が多いと思いますが、そういうところに黒いシャープな線の立体的な装飾品があると、すごく目を引くと思います」
使用済みのプラスチックストローをインテリアとして再生させればエコにもつながります。もちろん紙製のストローを使ってもOKです。
材料が揃ったら、早速ヒンメリを作ってみましょう。大岡さんに初心者でも挑戦しやすい2作品の作り方を教わりました。
【ヒンメリの作り方①】基本の8面体
大岡「まずは基本の形である『8面体』。大きさ違いをいくつか作って、糸でつないでも素敵だと思います。使用するストローはできるだけ細めのものを使ったほうが、美しく仕上がります」
●材料と道具
・ストロー(できるだけ細いもの)・・・5cm×12本
(※下に紹介する【下準備:ストローをカットする】を参考に、長さを揃えてカットする)
・糸(20番手くらいのレース糸。なければ綿糸)・・・適量
・長めの針(なければワイヤーや竹串など、細くて長いもの)
・定規
・ハサミ
●作り方
【下準備:ストローをカットする】
① 定規にストローを当てて、5cmのところで切る。
② ①でカットしたストローと2~3本ストローのお尻の位置を合わせ、長さが揃うようにすべて5cmにカットしていく。
③ すべてカットしたら、もう一度お尻の位置を合わせて、少し長いものがあれば細かくカットして長さが揃うように微調整する。
Point!
このときに長さをきれいに揃えることが、美しく仕上げるためのポイントです。
④ 5cm長さのストローが12本完成。
【8面体を作る】
① 針に糸を通し、5cmストローを3本通す。
② 針側ではないほうの糸端が5cmほど残るところで、ストローを合わせて正三角形を作り、糸を固結びする。
③ さらに5cmストロー2本を糸に通し、②で作った正三角形の*位置の下から針を通して糸を掛け、角で糸を引き締める。
④ 今度は新しくできた三角形の角を指で押さえながら、*位置の下から針を通して糸を掛け、角で糸を引き締める(こうすることで糸がほどけにくくなる)。これで正三角形が2つ完成。
⑤ ③~④を繰り返し、正三角形を全部で5つ作り、糸に最後の1本のストローを通す。
⑥ ②で残した5cmの糸端と⑤でストローに通した糸を合わせ、固結びする。
⑦ 固結びしたところから1番近い三角形の1辺のストローに針をくぐらせる。
⑧ 針を出した三角形と向かいの三角形を内側に起こして合わせ、2つの三角形の山の下に針を通してぐるりと1周させる。
⑨ 針を抜いて、三角形の頂点同士がくっつくように糸を引き締める。
⑩ ⑨の頂点の上に糸で輪を作り、頂点の下から針を通す。
Point!
黄色の三角形に半円を描くイメージで、糸をのせ、輪を作ります。
⑪ 輪の中心から針を抜き、糸を引き締める。
⑫ ②で残った糸端を針に通す。
⑬ 近くのストローに針のお尻を押し込む。反対側から針を引き出し、糸をストローの中に隠して形を整える。糸が長い場合はストローの際で切る。
⑭ 8面体の完成。
【ヒンメリの作り方②】ツリー
大岡「ツリー型のヒンメリは、子どもにも人気のデザイン。カラフルなストローを使うと、より楽しいと思います。今回は幹部分以外の三角錐を同じサイズで作りましたが、上から小・中・大と大きさを変えて重ねてモミの木風にするのもおすすめです」
●材料と道具
・ストロー(できるだけ細いもの)・・・8cm×18本、(幹部分)10cm×3本、3.5×3本
(※「基本の8面体」の作り方【下準備:ストローをカットする】を参考に、長さを揃えてカットする)
・糸(20番手くらいのレース糸。なければ綿糸)・・・適量
・長めの針(なければワイヤーや竹串など、細くて長いもの)
・定規
・ハサミ
●作り方
【8cmの正三角錐を3つ作る】
① 針に糸を通して8cmのストローを3本つなぎ、針側ではないほうの糸端が5cmほど残るところで、三角形を作って固結びする。
② 8cmのストローを2本通し、①で作った正三角形の*位置の下から針を通して糸を掛け、角で糸を引き締める。
③ 今度は新しくできた三角形の角を指で押さえながら、*位置の下から針を通して糸を掛け、角で糸を引き締める。
④ ③でできた三角形の頂点に向かってストローに針をくぐらせ、糸を引き抜く。
⑤ 抜き出した糸で三角形の頂点の上に輪を作り、頂点の下から針を輪の中に通して引き締める。
⑥ さらに8cmのストロー1本に針を通し、三角形の*位置の下から針を通して糸を掛け、角で糸を引き締める。
⑦ 糸で輪を作って、三角錐の頂点の下から針を輪の中に通して引き締める。
⑧ ①で残った糸端を針に通し、針のお尻から近くのストローに通して針を引き抜き、ストローの中に糸を隠す。
⑨ ①~⑧と同様に8cmの正三角錐を計3つ作る。
【幹部分を作る】
① 針に糸を通して10cmのストローを2 本、その後に3.5cmストローを1本つなぎ、針側ではないほうの糸端が5cmほど残るところで、三角形を作って固結びする。
② 3.5cmのストローを2本通し、①で作った二等辺三角形の*位置の下から針を通して糸を掛け、角で糸を引き締める。
③ 今度は新しくできた正三角形の*位置の下から針を通して糸を掛け、角で糸を引き締める。
④ ③でできた正三角形の頂点に向かってストローに針をくぐらせ、糸を引き抜く。
⑤ 抜き出した糸で正三角形の頂点の上に輪を作り、頂点の下から針を輪の中に通して引き締める。
⑥ さらに10cmのストロー1本に針を通し、二等辺三角形の*位置の下から針を通して糸を掛け、角で糸を引き締める。
⑦ 糸で輪を作って、三角錐の頂点の下から針を輪の中に通して引き締める。
⑧ ①で残った糸端を針に通し、針のお尻から近くのストローに通して針を引き抜き、ストローの中に糸を隠して始末する。
【すべてのパーツをつなげる】
8cmの正三角錐3つと、幹部分1つが揃った状態
① 幹のパーツを8cmの正三角錐の1つに下から通し、正三角錐の頂点の位置で幹から出た糸をくるりと巻いて固結びをする。
Point!
このとき下のパーツが少しぶら下がる位置で糸を固結びすると、飾った時にゆらゆら揺れて動きがでます。
② 不要な糸端は針に通して、近くのストローに隠して始末する。
③ 残りの正三角錐も①~②と同じようにつなげる。
④ ツリーの完成。
作ったヒンメリを飾って楽しむ
ヒンメリができたら、さっそく部屋に飾りましょう。
そのままモビールとして天井や壁に吊るしてもいいですし、ドライフラワーやエアープランツなどと組み合わせて吊るすのもおすすめ。
あるいは、オブジェとしてテーブルやシェルフに置いても素敵です。
また、祈りを込めて編むヒンメリは、お守りのように誰かに贈ってもきっと喜ばれると思います。
大岡さんの著書では初心者向けから上級者向けまで多数のヒンメリの作り方が紹介されていますので、今回の記事で興味をもった方は、ぜひ色んなモチーフにチャレンジしてみてください。
『北欧の光と影のモビール 幾何学模様の美しいヒンメリ』
大岡真奈(河出書房新社)
この方に教わりました
ヒンメリのおか 大岡真奈さん
千葉県在住。偶然手に取った雑誌でヒンメリを知り、その美しさに魅了されて以来、独学で様々な形を考案。現在は関東地方を中心に各地でワークショップを開催し、ヒンメリの魅力や作る楽しみを伝えている。過去に星野リゾート 軽井沢ホテルブレストンコートでの作品展示や『ハンドメイド日和』(ブティック社)、『北欧テイストの部屋づくり』(ネコ・パブリッシング)などの出版物や航空会社機内誌などに掲載。また、企業のヒンメリキットを監修するなど精力的に活動。著書に『幾何学模様の美しいヒンメリ』(河出書房新社)。
※記事の情報は2020年7月28日時点のものです。
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