初めてでも簡単にできる! ダーニングを素敵に仕上げるコツとプロの図案をご紹介
ヨーロッパの伝統的な針事「ダーニング」をご存知でしょうか? お気に入りの洋服に虫食い穴ができたり汚れがついたりしてしまっても、ダーニングをすることでさらに魅力的な衣服によみがえります。今回は基本的なダーニングの方法とコツを、ダーニングのワークショップを行う「HIKARU NOGUCHI TEXTILE DESIGN」の斉藤円さんに教えていただきます。
ヨーロッパの伝統的な修繕技術「ダーニング」とは?
日本ではまだ馴染みのない「ダーニング」。たとえばお気に入りのニットにあいた虫食い穴、使い込んですり減った靴下、何度洗っても落ちない衣類の汚れ…、そんな手放すにはもったいない衣服がある時、ダーニングで修復すれば以前よりも素敵に、さらに愛着のわく衣服に生まれ変わらせることができます。
そもそもダーニングとは、ヨーロッパ発祥の伝統的な修繕技法のことで、英語で「(ほころび穴を)かがること、かがり縫い」という意味を指します。従来のダーニングはステッチを目立たせず、元に近い状態に修復する方法がほとんどでしたが、ダーニングの書籍を多数出版しているテキスタイルデザイナーの野口光さんが行うダーニングは、あえて衣服の色や素材と同じ糸を使わないことで、修繕痕を隠さず、より服や着る人の個性に似合うようによみがえらせようというもの。
今回は野口さんのダーニング教室でアシスタントを務める斉藤さんに初めてでも楽しくできるダーニングのコツを教えていただきます。
\この方にお話をうかがいました/
HIKARU NOGUCHI TEXTILE DESIGN
斉藤円 さん
武蔵野美術大学卒。社会人を経験後デンマークの手工芸学校に留学し、デンマーク人の自由な物作りに衝撃を受ける。2018年よりテキスタイルデザイナーの野口光氏に師事。現在同氏のアシスタントを務める。
ダーニングを仕上げるときのコツ
ダーニングの方向性を決める
そもそもダーニングをする目的は、「この服をもっと着たい」という気持ちからする場合が多いと思いますが、そこから糸や素材選びをどうしていくかは、まずはその人がご自身のダーニングをどう見せたいかで大きく変わってきます。
例えばダーニングで修復した部分を見せたい場合は、生地とコントラストになる色を持ってきてポイントとして目立たせたり、逆に見せたくない場合はなるべく目立ちにくい同系色の糸や素材を選ぶなど、糸の選び方ひとつとっても目指す方向がまったく異なります。
補修のあとを見せたいのか、見せたくないのか、その意思決定が大きな軸になります。
自分の直感を大切に
どんな風にダーニングをしたいか方向がきまったら、次は使う糸選びです。きれいに縫わなきゃ、おしゃれに仕上げなきゃ、とダーニングのハードルを上げすぎる人が多いのですが、ダーニングの色や素材選びには正解がないので、まずは自分の好きな色を使っていただくことをおすすめします。
Tシャツやニットなど肌に直接触れる衣服をダーニングするときは肌触りのいい柔らかい糸を使うことが多いですが、一番はその服を繕う本人が「あ、この糸かわいいな、使ってみたいな」と糸に興味を持つこと。自分の直感を大切にして選んでみてください。
汚れやシミも生地の個性!
ダーニングをする上で大事なのは、汚れやシミを完全に隠そうとしないこと。生地についた汚れをダーニングで隠そうと思ったら、かなり細かく丁寧に縫わないとなかなか完全に隠し切ることはできません。
ダーニングでは、汚れも生地の個性のひとつと捉えて、隠すというよりダーニングでなじませて「汚れを生かす」イメージでステッチを施すと、味のある仕上がりになります。
糸をギュッギュッと引きすぎると、ゴマシオのよさでもあるぷちぷちとした縫い目のふっくり感が潰れ、縫い目が生地の中に埋まって表面に出てこなくなってしまいます。引きすぎず、ゆるすぎず、力加減を意識していただくと素敵なダーニングが出来上がると思います。
ダーニングを始める前に用意するもの
〈用意するもの〉
- ダーニングマッシュルーム
- 針
- 糸
- 糸通し
- はさみ
- ゴム
- あて布(※応用編で使用します)
今回は、野口さんのムック本「愛らしいお直し ダーニングで大好きな服がよみがえる」の付録(ダーニングマッシュルーム、糸10種類、糸通し)を使って仕上げていきます。
ダーニングで使用する針は、フランス刺繍針の5号くらいの細さのものがおすすめ。針穴が大きくて先が鋭く尖っているので、いろいろな場面で使いやすい針なのだそう。もちろんご家庭にある裁縫針でも大丈夫です。
セーターのようなざっくり編まれた衣類を縫う場合であれば、先が丸くて針穴が大きい毛糸のとじ針がおすすめです。
初心者でも簡単! 基本的なダーニングのやり方【ゴマシオ】
斉藤 数あるダーニングの修復方法の中で最も簡単で初心者向きの「ゴマシオ」ダーニング。無造作に散らばったゴマ粒のような縫い目が可愛らしい人気の基本ステッチです。
洗っても取れないシミや汚れを隠したり薄くすり減った部分を補強できたり、ゴマシオを1つ覚えておくだけでいろいろな衣服の悩みを解決できます。
斉藤 今回は洗っても落ちない靴下の黒ずみ汚れにダーニングをしていきます。
1.布にダーニングマッシュルームをセットする
ダーニングを施す生地の裏側にダーニングマッシュルームをセットします。ダーニングしたい場所を中央に配置して、布は緩みがない程度に張り、ダーニングマッシュルームのカサの後ろをゴムで結んで固定します。
あまり引っ張りすぎるとダーニングマッシュルームを外したとき出来上がりが不格好になってしまうので、人が身に着けたときの伸びを想定して適度に張ってください。
2.糸を50cmくらいの長さに切り、針に糸を通す
使う糸がきまったらだいたい50cmくらいにカットし、糸通しで糸を針に取り付けます。
余談ですが、糸通しの使い方をご存知でしょうか?
糸通しの針金の間に糸を入れたあと、アルミの丸いプレート部分を引っ張る人が多いのですが、実は間違い。その使い方だと糸通しは簡単に壊れてしまう構造になっているので、針金の根本をしっかり押さえて引っ張るのが正しい使い方です。
3.生地の布目を整える
生地には縦と横の流れがあります。
この縦横の布目が曲がっていたり伸び方に歪みがあったりすると、出来上がりの見た目にも影響が出てくるので、布目を真っすぐに整え、上下左右を決めてから1針めを縫っていきましょう。
4.1列めを縫う
汚れた箇所のだいたい5mmくらい外側から縫っていきます。穴あきや薄くなった布を補修する場合も同じくプラス5mmで縫っていきます。
まずは右から左に1cmほど1針すくいます。
※糸の端は最後に糸始末をするので、10cmほど残しておいてください。
2針めは、ゴマシオ1粒分(1mmくらい)右に戻って針を通し、また左1cmくらい先に針を出します。同じ要領で、ゴマシオ1粒分戻って1針進む、を繰り返し1列めを縫っていきます。
\ここがPOINT/
斉藤 ゴマシオを縫うときは、等間隔できれいに縫うよりもちょっとばらつきが出るくらいのほうがゴマシオらしい味わいが出てきます。あまり几帳面になりすぎず、気楽に楽しく縫ってみてくださいね。
5.2列め以降を縫う
2列めは、1列めよりゴマシオ1粒分くらい上段から縫い始めます。
\ここがPOINT/
斉藤 2列めはあえて1列目からずらした位置で縫うことで、無造作な感じに仕上がるのでおすすめです。
3列目以降も同様に繰り返していくと、このような形に出来上がります。
6.ダーニングマッシュルームをはずす
ゴムをほどき、ダーニングマッシュルームから生地をはずします。
【ダーニングのやり方】糸始末の方法
肌に直接当たらない部分の糸始末であれば一般的な玉結びで問題ありませんが、今回は肌に触れる靴下の裏側なので、以下の方法で縫い始めと縫い終わりの糸を始末します。
糸を針穴に通し、適当な位置に針を刺して糸を生地の裏側に通します。
生地を裏側にひっくり返し、糸から近くの縫い目に針を3目程度くぐらせます。出ている糸をはさみで切って完了です。他の糸も同じように始末してください。
基本のゴマシオダーニングの完成!
ダーニング応用編《ゴマシオ+あて布》
斉藤 次は穴の空いたお洋服にあて布をして先ほどのゴマシオダーニングで直していきます。ゴマシオのステッチにあて布をプラスすることで、どんな大きさの穴でも簡単にお直しすることができます。
1.あて布を仮止めする
あて布を穴よりも一回り以上大きめにカットしたら、洋服を裏返し、服の間に本をはさみます。
あて布の5mmほど内側をしつけ糸で仮止めします。(仮止め用ののりがある場合は、そちらを使用してもOK)
ちなみにあて布はダーニングの糸に隠れて見えなくなるので、衣服から透けさえしなければどんなものでも大丈夫です。今回は肌に当たる場所につけていくので、薄めで肌触りのいい布を使用します。
2.裏側からゴマシオダーニングをする
大きい面積をダーニングする場合は、本を下敷きにしたままでも構わないのですが、今回は狭い範囲のダーニングなので基本編と同じように縫う面の裏側にダーニングマッシュルームをセットして縫っていきます。
今回は裏面と表面の両方からゴマシオを縫い、表裏どちらの表情も生かした縫い方をしていきます。まずは裏側のダーニングから、基本のゴマシオを縫っていきます。
先ほどと同じように、縫う部分をダーニングマッシュルームで固定し、穴の大きさよりだいたい+5mmの範囲をゴマシオで縫っていきます。もちろんしつけ糸ギリギリまでダーニングをしていただいてもいいですし、あて布を無視して縫っていくのもなんでもあり。ダーニングする範囲はお好みで決めてみてくださいね。
手順は先ほどと変わりませんが、最後の糸始末だけ少し異なります。ゴマシオを縫っている側が衣服の裏側にあたるので、残った糸は反対側に通さずこの面のままゴマシオに針をくぐらせて糸始末します。
3.表側からゴマシオダーニングをする
裏側のゴマシオの糸始末が終わったら、生地をひっくり返して今度は表側のダーニングに移ります。表側はポイントにピンクのモヘアの糸を使ってダーニングしていきます。
水色の糸とのバランスを見つつ、表側も基本のゴマシオを縫い、終わったら生地の裏にまわって糸始末をします。
4.しつけ糸を取る
仮止めしたしつけ糸を取ります。しつけ糸は結んだり糸に絡ませたりしていないので糸ですくって引っ張るだけで取り除けます。
このままでも完成ですが、あて布の余分な部分が肌に触れて気になる人は、適宜はさみでカットしてください。
最後にまわりにゴマシオを散らして完成!
アイデアのヒントに。ダーニングの作例をご紹介
基本のゴマシオの縫い方を覚えたら、次はデザインに変化をつけてみると同じゴマシオでもまた違った雰囲気を楽しめます。これまで斉藤さんが作ってきたダーニングの作例をご紹介します。
●ゴマシオの用例
●ゴマシオとバスケットの用例
バスケットとは、たて糸とよこ糸を掛けていくダーニングテクニックのこと。基本は四角い形のステッチですが、縫い方次第でどんな形にも応用できます。複数のステッチを組み合わせることで表現方法はより自由に。
●ハニカムダーニングの用例
最後はハチの巣のような幾何学的な模様が特徴のハニカムダーニング。すり減って薄くなった部分や広範囲の汚れを覆うのにおすすめのステッチです。
お気に入りの洋服をダーニングでもっと素敵にしてみませんか?
お家にある糸と針で気軽にパッと始められるダーニング。
斉藤さんにお話をうかがうまでは「縫いもの初心者には難しそうだな…」と尻込みしていましたが、取材後、教え通り余計な力を抜いてダーニングをしてみたら、20~30分ほどであっという間に完成しました。そして思った以上に楽しい! これはたしかにハマってしまいそうです。
みなさんも始める前に心のハードルをぐっと下げて、「気軽に、気楽に、好きなように」を合言葉にダーニングを楽しんでみてください!
野口光の、ダーニングでリペアメイク お繕いの本
基本のダーニングをはじめ、羊毛フェルトや刺繍を駆使する方法や生地の裂け目や擦り切れの補修の仕方など、手縫いでものを蘇らせる「お繕い」のオリジナルアイデアが詰まった決定版。
著者:野口光
出版 : 日本ヴォーグ社
価格:¥1,760
※記事の情報は2021年2月17日時点のものです。
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