【熱中症 解説編】夏場は室内の発症率が増える!正しい対処法とは?
マスク生活や外出自粛による体力低下などの影響で、熱中症になるリスクが高くなっています。梅雨明けに急に気温が高くなる時期は、特に注意必要です。日々の生活の中できる熱中症対策について、熱中症対策の専門家にお聞きました。
この方にお聞きしました
三浦邦久先生
医療法人伯鳳会 東京曳舟病院 副院長。 麻酔科の医師として診療にあたる一方で、東京都医師会救急委員会委員、東京消防庁救急相談センター副医長なども歴任。熱中症対策の啓蒙に力を入れている。
熱中症のキケンは室内にもある。熱中症処置に必要な「FIRST」とは?
――熱中症とは、どういった症状なのでしょうか?
三浦 熱中症とは高温多湿な環境にいることで、体温調整機能が上手に働かなくなり発生する症状のことです。一般的には気温や室温が28℃以上、湿度が70%以上の環境下で起こりやすいと言われています。夏の暑い時期は屋外での活動はもちろん、室内でも熱中症になることがあります。熱中症は気温や湿度の変化に体が対応できないことによって起きるので、家の中で過ごしていても油断は禁物です。実際に2020年の6月から9月熱中症で救急搬送された人のデータを見てみると、発生場所は住居が最も多くなっています。
――どのような症状の時に、熱中症を疑ったらいいですか?
三浦 主な症状としてはめまいや頭痛、吐き気、倦怠感、筋肉の痙攣などがあります。初期は頭がボーっとする、ほてりを感じるという程度のこともあるので、少しでも体調の変化を感じたら、涼しい場所に移動して水分補給をしてください。保冷剤などで、脇の下や首筋を冷やすのも効果的です。東京都医師会では、熱中症の際に必要な応急処置について頭文字をとった「FIRST」を勧めています。
【応急処置に必要なFIRST】
●Fluid(フルード)液体
まずは水分補給。大量に水分が失われている場合は、経口補水液など吸収されやすいものを。
●Ice(アイス)氷
衣服を緩め、うちわ等で扇ぎ体を冷やす。冷たいタオルや保冷剤などで、首筋や脇の下など大きな血管が通っている部分を冷やす。
●Rest(レスト)休息
涼しい場所に移動して体を休める。エアコンの効いた場所、外なら木陰などに移動する。
●Sign(サイン)兆候
15分程経過したら、症状を確認する。
●Treatment(トリートメント)治療
症状が改善しなければ119番通報し、病院へ搬送する。
熱中症のリスクが高まるコロナ禍の生活スタイル
――マスクや外出自粛などの生活スタイルの変化は、熱中症にも影響がありますか?
三浦 感染予防としてマスクは欠かせませんが、熱中症のリスクが上がる可能性があります。マスクをしていない時と比べると血中の二酸化炭素濃度や体感温度が上昇するなど体への負担が大きくなります。屋外でスポーツや作業をする場合には他人との距離(2m以上)を確保できればマスクを外しても問題ありません。また、スポーツ時でなくても1~2時間に1回は人のいない場所に移動して、マスクを外して深呼吸するといいでしょう。マスクの中はサウナ状態なので、時々でも外すことで体温の上昇を防ぐことができます。
――熱中症対策にはマスクの着用にも工夫が必要なのですね。水分補給などで気を付けることはありますか?
三浦 マスク内は湿度が保たれているので、のどの渇きを感じにくくなっています。水分不足になる前に意識的に補給する必要があります。一度にたくさんの水分を取ると吸収が悪くなり、カラダの中の塩分濃度が下がってしまうこともあるので、1時間に100mlくらいを少しずつ、こまめに補給することを心がけてください。
――ほかにもコロナ禍ならではの注意点はありますか?
三浦 人間は汗をかくことで熱を放散し体温調節をしています。通常は春先から初夏にかけて気温が上がる時期に体が暑さに慣れる「暑熱順化」が行われます。しかし、今年は外出自粛などの影響でこれが十分できていない人が増えているようです。梅雨明けなどに急激に気温が上がると体が対応できず、熱中症のリスクも高くなります。
熱中症予防には運動や入浴などで暑さに慣れることが必要です。朝晩の気温がそれほど高くない時間にウォーキングする、半身浴で汗をかくなどの習慣も有効だと思います。続けることで汗腺が鍛えられると上手に汗をかけるようになり、体温調整ができるようになります。
――汗をかくのは熱中症予防には大切なのですね。
三浦 汗が蒸発するときの気化熱によって体温が下がります。汗がある程度肌に残っているのが体温調節には効果的なので、しっかりと拭きとらず、軽く抑える程度に。気持ち悪い感じる場合は汗拭きシートなど水分を含んだもので拭くのもいいと思います。
熱中症は、油断している時ほどなりやすい?
――熱中症になりやすいのはどんな時でしょうか?
三浦 一番危ないのは熱中症を意識していない状況です。屋外やスポーツをする際には熱中症に気を配る人も多いのですが、普段の行動が熱中症の症状につながることも多いのです。例えば「お酒を飲んだ時」「冷たいものを食べすぎてお腹を壊した時」「睡眠不足の時」などは要注意です。
●飲酒
アルコールには利尿作用があるので、脱水症状を引き起こすことがあります。気温が高い夜など汗をかいたときに、水分補給としてビールを飲むのはおすすめできません。
●冷たい飲み物や食べ物
食欲がないからと冷たい飲み物や食べ物ばかりを摂っていると、胃腸が疲れてお腹を壊すことがあります。下痢などで水分が不足していると熱中症のリスクが高まります。
●睡眠不足
睡眠不足が続くと、疲労が蓄積し体温の調節機能が低下しやすくなるため熱中症になりやすくなります。
熱中症は、「夜」も注意が必要。
――寝ている間に熱中症になる「夜間熱中症」も増えているようですね。
三浦 夏は昼間の日差しで壁や天井が暖められて夜になっても室温が下がりません。都会では熱帯夜と言われる気温が25℃以上ある日も多いですよね。こうした状況でエアコンを使用しないで寝ると夜中に脱水症状が起こります。体調の異変に気づいても脱水による痙攣で身動きが取れず、水分補給ができないために症状が悪化し、最悪の場合、死に至るケースもあります。
シニア層など体力がない人に多いとされていますが、若い世代でも夜間熱中症になる危険は十分にあります。気温が高い夜が1日だけなら重症になることは少ないのですが、3、4日が続くと、体へのダメージが蓄積されていきます。体力が落ちている時には熱中症になりやすいので、暑い夜が続き疲労がたまっているときに夜間熱中症になるケースが多いようです。
――夜間熱中症にならないためにはどんなことに気をつけたらいいのでしょうか?
三浦 エアコンをつけて適切な室温(28℃以下)を保つ、寝る前にも水分補給をするなどの心がけが大切です。できればエアコンは朝までつけっぱなしにすることをおすすめします。エアコンのオンオフを繰り返すと室温や湿度が安定せず、体調を崩す原因にもなります。
熱中症対策は、「冷却ジェルシート」より「手のひらを冷やす」
――熱中症対策として実践したほうがいいことはありますか?
三浦 高温・多湿な環境は熱中症になりやすいので、外出時には帽子や日傘などで強い日差しを避け、屋内では風通しのいい環境を通るようにしましょう。また外出時の熱中症対策としては「手のひらを冷やす」のも効果的です。出かける前に15℃程度の水に10分から15分間、手のひらをつけておくと体温の上昇を防ぐことができます。
体の末端にある手のひらがラジエーターのような働きをして、冷やされた血液が体全体をめぐり体温を下げてくれます。冷えた「ペットボトル」を握るのも同様の効果があります。自販機のドリンクは5℃程度なので、少し時間をおいて温度を下げてから握るようにしましょう。ウォーキング中など「体温が上がってきたな」と感じたときもすぐにできるので、ぜひ試してみてください。
――体温を下げるために冷却ジェルシートなどを使うのは効果的でしょうか?
三浦 冷却ジェルシートは顔などに火照りを感じたときに貼るとスーッとして気持ちいということはありますが、表面の皮膚を冷やす局所冷却なので体温を下げる効果は期待できません。熱中症のキケンを感じた時には、保冷剤などを使って、脇の下や首の後ろ、鼠径(そけい)部など太い血管が通っている部分を冷やすようにしましょう。
――毎日の生活の中で心がけておくべきことはありますか?
三浦 基本的なことですが、こまめな水分補給と適度な運動、栄養バランスのいい食事、十分な睡眠などは熱中症予防には欠かせません。中でも水分補給は熱中症予防で最も大切なポイント。
水分は喉の渇きを感じる前にこまめに摂る習慣を。ただし、激しく発汗をしたときに大量に水を飲むと、体の中の電解質のバランスが崩れるので水分と同時に塩分やミネラルも補いましょう。
そして運動も熱中症対策には欠かせません。筋肉には水分を保持する働きがあり、筋肉量が減少すると体内の水分量も少なくなると言われています。暑さに気をつけながら適度な運動で筋力を維持してください。
●水分補給
・1時間に1回など、飲むタイミング決めて水分補給をする。
・水分補給には汗と一緒に失われる塩分やミネラルを補える。「スポーツドリンク」や「麦茶」がおすすめ
・一度に大量に飲むと吸収されにくいので、こまめに飲む。
●運動
・気温が高くない時間帯に20分程度のウォーキングをする。
・スクワットなど室内できる運動で筋力を維持する。
●生活習慣
・朝食を食べて胃腸を動かし栄養を吸収できる体に。
・腸内環境を整えて免疫力を上げる。
・規則正しい生活、睡眠で疲れをためない。
●熱中症対策におすすめの食品
・夏野菜やスイカなど「カラダを冷やす」作用のある食べ物。
・ビタミンや疲労回復に効果があるリコピンを含む「トマトジュース」
・血液量を増やす「牛乳」
熱中症予防は、自己管理が大切!
熱中症は正しい対策によって予防することができます。水分補給など自己管理をしっかり行って、暑い夏を元気に乗り切りましょう!
※記事の情報は2021年7月13日時点のものです。
- 1現在のページ