食べないダイエットは危険! 管理栄養士が健康的な食事習慣を身に着けるコツを解説します

目指す体型・体重になるために、食事制限などのダイエットをした経験、あなたにもありませんか? しかし、結果を急ぐあまり食事を抜いて痩せようとすると、そこには思わぬ落とし穴が潜んでいることも。管理栄養士の森由香子先生が、食べないダイエットの危険性と、栄養バランスを整える食事のコツを解説します。

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多くの女性は、ダイエットに励んだことがあると思います。中には、趣味がダイエットという人もいるぐらいダイエットはイベント化している風潮があるようにも思えます。多くの女性が痩せた体を望むのは、社会的背景にスリムボディを理想の形とする傾向が強くあるからではないでしょうか。

しかし、細くなりたいという一心で無理なダイエットを試みた結果、痩せ過ぎてしまい、健康に悪影響を及ぼす人も少なからずいるということを忘れてはいけません。

ダイエットに取り組むなら方法は慎重に選んでいただきたいのですが、多くの方は、将来自分の健康にどんな風に影響するのかというところまで把握していないように思います。今は問題ないからと軽い気持ちで選んだそのダイエット法が、健康維持の足を引っ張る可能性があるのです。

痩せ過ぎは自分の健康だけでなく、将来生まれてくる子どもに影響を及ぼすことも

令和元年国民健康・栄養調査によりますと、「やせの者(BMI<18.5kg/m²)」の割合は男性3.9%、女性11.5%で、20歳代女性の痩せの者の割合は20.7%とどの世代よりも高いという結果が出ています。

痩せの者(BMI<18.5kg/m²)の割合の年次推移(20歳以上)(平成21年~令和元年)

痩せの者(BMI<18.5kg/m²)の割合の年次推移(20歳以上)(平成21年~令和元年)

出典:https://www.mhlw.go.jp/content/000711005.pdf

痩せ過ぎの女性は栄養不足がストレスとなることから、標準体重の人に比べて早産のリスクが1.6倍、低出生児のリスクが1.57倍に及ぶという報告があります。その上痩せ過ぎの女性から生まれた子供は生活習慣病になりやすく、次世代への健康にも悪い影響を与えることが心配されています。

見た目はスリムでも…20代女性の隠れ肥満が増加中

20代女性に痩せ過ぎている方が多くいる一方で、じつは今、見た目はスリムでも体脂肪量が多く(30%以上)、筋肉量が少ない隠れ肥満状態の方が増加していることも問題となっています。痩せ過ぎは身体や将来への影響が危惧されますが、隠れ肥満も良い状態とは言えません。

隠れ肥満は、将来生活習慣病になるリスクを高め、知らない間に動脈硬化を進ませると考えられています。また、筋肉量が少ない体は基礎代謝量が低くなるため、痩せにくい体をつくってしまいます。その結果、ますます体脂肪量が増えるという悪循環に繋がることもあります。

中高年の女性から「若いときのようにすぐに痩せられない」と、代謝機能の衰えに嘆く声をよく耳にしますが、これも同じように若いときの欠食や食事制限などの無理なダイエットが原因となっている場合があります。誰しも加齢とともに筋肉量は少しずつ減ってはいくものですが、食事を取らず体重を減らすことで筋肉量の減少を加速してしまうのです。

高齢期で問題になっているサルコペニアが、20代にも起こる!?

欠食や筋肉量が少ない人の身体への影響は他にもあります。

高齢期で問題になっているサルコペニア*1ですが、じつは20代の女性にも同じようなことが起こっているという報告があるのです。

*1 サルコペニア…筋肉量や筋力が低下し身体機能が低下している状態

サルコペニアは、食事面でみると、たんぱく質の不足が長期間続くことで起こります。サルコペニアの状態を放置しておくと、ロコモティブシンドローム*2を招きやすくし、いずれ介護が必要な状態になることが懸念されます。20代、30代ではサルコペニアやロコモティブシンドロームを自分の身にふりかかる健康問題として捉えることが難しいと思いますが、ぜひこの事実を受け止めていただきたいです。

*2ロコモティブシンドローム…骨、関節、筋肉の運動器に障害があるために、筋力、バランス力などが低下し、日常生活に影響が出つつある状態

東京大学医学部付属病院22世紀医療センター 吉村典子氏の研究(The ROAD Study)の報告によりますと、ロコモティブシンドロームの初期の段階である移動機能低下が始まっている状態の人は、40歳以下の女性で約20%いることが判明したそうです。しかも残念なことに、該当する人達は将来歩けなくなることへの危機感が全くなかったそうで、若い女性の欠食などによる痩せ過ぎに警笛を鳴らしています。

このように、体重の減少だけに囚われたダイエットには、さまざまな健康リスクを増やす危険性が潜んでいます。中高年になってもエネルギー代謝のよい体を維持するためにも、若いからと言って無理なダイエットにチャレンジするのではなく、運動習慣と正しい食事習慣を身につけていただきたいと思います。

とくに20代は筋肉合成機能が高く、筋肉をつけるチャンスのときです。筋肉量を増やして基礎代謝量を高め、長い目で見て太りにくい体をつくりましょう。

また運動時に筋肉から分泌されるマイオカインという物質には、皮膚の代謝を高めて美肌をつくることもわかってきました。運動習慣は基礎代謝量を高めるだけでなく、お肌の健康維持や見た目のアンチエイジングにも役立ち、一石二鳥です。

1日に必要なエネルギー(カロリー)はどれくらい?

それでは、正しい食事習慣についても解説していきます。まずは、厚労省が示す年齢別の目標とするBMIの範囲と1日の推定エネルギー量を見ていきましょう。

目標とするBMIの範囲

年齢 目標とするBMIの範囲
18~49歳 18.5~24.9
50~64歳 20.0~24.9
65歳以上 21.5~24.9

BMIの計算式:体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)=BMI


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エネルギー必要量の推定値

  男性(kcal/日) 女性(kcal/日)
身体活動レベルの目安 低い←ふつう→高い 低い←ふつう→高い
18~29歳 2300 2650 3050 1700 2000 2300
30~49歳 2300 2700 3050 1750 2050 2350
50~64歳 2200 2600 2950 1650 1950 2250
65~74歳 2050 2400 2750 1550 1850 2100
75歳以上 1800 2100 ─ 1400 1650 ─


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エネルギー必要量の推定値

身体活動レベル 低い 生活の大部分が座位で静的な活動が中心
ふつう 座位中心の仕事だが、通勤、買い物、家事、軽いスポーツを含む
高い 移動や立位の多い仕事や活発な運動習慣を持っている

出典:日本人の食事摂取基準(2020年版)

この表では、身体活動レベルがふつうの20代女性の1日の推定エネルギー必要量は2000kcalとされています。しかし、日本最適化栄養食協会(理事長 伊藤裕氏 慶応義塾大学 予防医療センター特任教授)によりますと、20代女性の1日の摂取エネルギー量は平均1600 kcal前後、単純計算で400kcalも足りていないことがわかります。協会はこれは低栄養の状態とし、低栄養は貧血や冷え性、無月経を招く可能性があると警告しています。

“早く痩せたい”という強い気持ちからとにかく摂取エネルギーを減らそうと、1日1食、あるいは2食など極端に食事の量を減らしたりする人がいますが、これは危険です。食事を減らすことは、体に必要な栄養素が不足することにもつながります。

食事は1日3食、主食(炭水化物)、主菜(たんぱく質)、副菜(野菜、海藻、きのこなど)をそろえることが基本です。朝食も必ず食べるようにしてください。筋肉の合成を高めてくれるたんぱく質は毎食摂取していただきたいですし、特に朝食でたんぱく質をしっかり摂ることで、1日全体でのエネルギー摂取量を減らし、エネルギー消費量を増やすことができます。

栄養バランスを整える「かきくけこ、やまにさち」®食事法

とはいえ、必要な栄養をバランスよく摂って食事をするのは難しいですよね。

そこで、私の提唱する「かきくけこ、やまにさち」®食事法を紹介いたします。こちらの10品目を3食に振り分けるだけで、栄養バランスを簡単に整えることができますよ。
 

「かきくけこ、やまにさち」®食事法による10品目と1日あたりの摂取目安

か…海藻(副菜)
き…きのこ(副菜)   
く…果物(副菜)
け…鶏卵(主菜/1~2個)
こ…穀類・芋類(主食)
や…野菜(副菜/350g以上、毎食120g以上)
ま…豆・大豆類(主菜/納豆なら1パック(40~50g)、豆腐なら100~150g)
に…肉(主菜/100g)
さ…魚・魚介類(主菜/100g)
ち…チーズなど乳製品・牛乳(副菜/普通牛乳なら200ml)

「かきくけこ、やまにさち」®食事法の例

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繰り返しますが、食べないダイエットで痩せた体をキープしている方は、将来の自分の姿にどうか危機感を持っていただきたいです。極端な食事制限をして体重を減らして痩せ過ぎることで、かえって痩せにくい体をつくり、たまった体脂肪が健康維持を阻みます。

ダイエットをするならば、将来の自分の健康状態も見据えて、栄養を補給しながら筋肉量を増やすことを考えてみましょう。正しい食事習慣、運動習慣をつけることを念頭に入れて実践してくださいね。みなさま自身のために、食事を抜くような無理なダイエットはお控えください。


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※記事の情報は2023年8月10日時点のものです。

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