管理栄養士が解説! 鉄分のウソ?本当?に答えます

女性にとって大事な栄養素とよく言われる「鉄分」。その効果や正しい摂り方などを知らずに、サプリメントなどでなんとなく摂取していませんか? 管理栄養士の森由香子先生に鉄分の効果や摂取方法、巷で言われる鉄分のあれこれは本当か?など、詳しく教えていただきました。

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鉄分の体内での効果とは?

鉄は、成人の体内に3~4gが存在しています。その約64%はヘモグロビンと結びついてヘモグロビン鉄として赤血球に含まれ、体の細胞へ酸素を運んでいます。そして、約4%がミオグロビンとして筋肉に、約29%はフェリチンやヘモジテリンという貯蔵鉄として肝臓や脾臓に含まれています。

また、エネルギー代謝に関わる酵素の構成成分や甲状性ホルモンの合成、βーカロテンからビタミンAの合成、活性酸素の処理などの働きもあります。

私たちの体内で多角的な作用を持つ鉄分は、健康維持に重要な働きをしていることがわかります。

鉄は1日どれくらい摂れば良い? 鉄分不足や過剰摂取が身体に及ぼす影響は?

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●鉄の食事摂取基準(mg/日)
年齢等 月経なし 月経あり 耐容
上限量
推定平均必要量 推奨量 推定平均必要量 推奨量
18~29歳 5.5 6.5 8.5 10.5 40
30~49歳 5.5 6.5 8.5 10.5
50~64歳 5.5 6.5 9.0 11.0
65~74歳 5.0 6.0    
75歳以上 5.0 6.0    
妊婦付加量初期 +2.0 +2.5 - - -
妊婦付加量中期・後期 +8.0 +9.5 - - -
授乳婦付加量 +2.0 +2.5 - - -
出典:日本人の食事摂取基準 2020年版より一部抜粋

上の表は、女性の1日あたりの鉄の食事摂取基準量です。

鉄が欠乏し続けると、体の働きに支障をきたします。例えば、貧血や運動能力の低下、体温調節不全、免疫力低下をもたらします。

またお肌にも悪影響を及ぼします。前述したとおり赤血球に含まれるヘモグロビンは細胞に酸素を運ぶ働きがありますので、鉄不足でヘモグロビンが減ると細胞に酸素が十分に行き渡らなくなり、細胞の機能低下が起こります。その結果、粘膜の炎症や肌の張りを保つコラーゲンの生成がうまくいかなくなる可能性があります。

逆に過剰摂取になる場合は、過剰症として発がん物質の活性酸素の生成がみられます。通常の食事では過剰症になりませんが、サプリメントや鉄強化食品では注意が必要です。成人女性の鉄の上限量は、1日40mgです。思いあたる方は一度、摂取している鉄の量を計算してみることをおすすめします。

「貧血には鉄分が効く」はウソ?

貧血のイメージ

ときどき、貧血の改善に鉄分だけ摂れば良いと考える方を見かけます。

たしかに鉄欠乏性貧血は、ヘモグロビンの構成成分である鉄の需要と供給バランスが崩れ、鉄の欠乏により起こりますが、鉄分だけ摂れば良いというのは、木を見て森を見ない捉え方です。

そもそも血液はたんぱく質から構成されていて、たんぱく質の吸収にはビタミンB群のひとつであるビタミンB6が必要です。ほかにもビタミンB2、B12、葉酸などが血液をつくる栄養素として挙げられます。そしてビタミンB群は全て揃うことで代謝が高まります。つまり、血液を作るにはいろいろな栄養素が関わっているため、鉄分だけでは足りないのです。

鉄欠乏性貧血に陥りやすい方の傾向として、無理なダイエットや偏食、誤った食生活や食事習慣があります。日頃から栄養素のバランスを考えて1日3食とり必要なエネルギー量や栄養素を確保するように努めましょう。

食品に含まれる鉄は2種類ある

ところで、食品に含まれる鉄には2種類あることをご存じでしょうか。

ひとつは肉や魚などに含まれるヘム鉄で吸収率が10~30%、もうひとつは卵、貝、大豆類、野菜に含まれる非ヘム鉄で吸収率が1~8%です。数字を見るとどちらも吸収率があまり高くないことがわかります。

ちなみに鉄の吸収は、体の鉄の代謝状態によって変化します。欠乏状態では吸収が良くなり、十分な状態では低下します。

鉄分を効率よく摂取する方法は?

バランスのいい食事

鉄分を上手く摂る方法のひとつとして、吸収率がアップする組み合わせをご紹介します。

実は非へム鉄は、ヘム鉄と同時に摂ることで吸収が上がります。少し専門的な話ですが、肉や魚に含まれるたんぱく質は、卵、貝、大豆類、野菜に含まれる三価の鉄(非ヘム鉄)を二価の鉄(ヘム鉄)に変えることができ、これによって吸収率を高めることができるのです。

つまり卵、貝、大豆類、野菜の非ヘム鉄をより多く体内に取り入れるには、肉や魚といったヘム鉄と一緒に食べるのが効果的。例えば、野菜料理を食べるときは、肉料理や魚料理と組み合わせると良いのです。

ほかにも、吸収率をアップさせる栄養素があります。それは、ビタミンCです。ビタミンCは野菜や果物に多く含まれますが、その中でも柑橘類など酸味の強い食品は、胃酸を分泌させ吸収率を高めてくれます。

このように鉄分の吸収率を高める方法はいくつかありますが、難しく考えることはありません。主食、主菜、副菜の構成で栄養バランスのとれた食事をしていれば、自ずと非ヘム鉄の吸収が上がる食べ方になっていきますよ。

「鉄分はカルシウムと一緒に摂ると効果半減」って本当?

先ほどとは反対に、鉄の吸収を妨げる成分があります。それは、緑茶などに含まれるタンニンや、牛乳などに多いカルシウムです。これらを含む食品は、食事中ではなく食後に摂る方が良いでしょう。

ですが医師からの指示を受けている方などを除いて、一般的には鉄分摂取のためにタンニンやカルシウムを必要以上に避ける必要はないと私は思います。理由として、これらの栄養素はいろいろな食品に多かれ少なかれ含まれていますし、さらにいえば、どちらも体に良い働きをしてくれる成分だからです。また、ひとつの食品に鉄分とタンニンやカルシウムが両方含まれていることも多く、どちらかだけを避けようとすることは現実的ではありません。

鉄分の多い食品は?

最後に、鉄分たっぷりの食品をご紹介します。

●鉄分の多い食品一覧

食品名 100gあたりの
含有量(mg)
1回使用量
目安量 含有量(mg)
そば(ゆで) 0.8 200g 1.6
豚レバー 13 50g 6.5
鶏レバー 9 50g 4.5
牛レバー 4 50g 2
牛肩ロース(赤肉) 2.4 80g 1.9
輸入牛ヒレ肉 2.8 80g 2.2
和牛もも肉 2.8 80g 2.2
かつお 1.9 1切れ(100g) 1.9
まぐろ脂身 1.6 1切れ(100g) 1.6
ぶり 1.3 1切れ(100g) 1.3
まいわし 2.1 1尾(60g) 1.3
わかさぎ 0.8 2尾(50g) 0.4
生かき 2.1 むき身4個(50g) 1.1
もずく 0.7 50g 0.4
がんもどき 3.6 1個(80g) 2.9
糸引き納豆 3.3 1パック(50g) 1.7
ほうれんそう 2 1束(200g) 4
出典:『改訂6版 臨床栄養ディクショナリー』(メディカ出版)より

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繰り返しますが、鉄分補給も主食、主菜、副菜の食事構成を基本とした上で、新たに様々な食材を取り入れ、多様性のある食事にすることが遠いようで近道になるのではないかと私は考えています。

今回は鉄に焦点を当ててお話しましたが、みなさんもご存じの通り、体に必要な栄養素は鉄以外にもたくさんあります。いろいろな食品から多種類の栄養素がとれるよう心がけることが大切です。

栄養バランスのとれた食事をして、健やかに過ごしましょう。

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※記事の情報は2024年1月12日時点のものです。

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